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保育園の園舎建築の設計専門家・ちびっこ計画の日々

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カテゴリ:●おすすめの本( 12 )

おすすめの本:『日本における保育園の誕生』

 明治期の民間保育所の立ち上げから、大正期の公立保育所の設立まで、我が国における保育所の黎明期を詳細に追う。東京女子師範付属幼稚園や二葉保育園から、岡弘毅の保育一元化論、石井十次らの児童保護事業なども射程に収め、先人たちが子どもたちの貧困に対し如何に尽力してきたのか、定員・保育士数・保育料・日課・法令・貧困の実情など、あらゆる視点から当時の状況を考察し、園舎の平面図や当時の写真など豊富な資料とともに詳らかにする。
 小規模保育所の公募が始まり、株式会社に門戸を開く動きが加速し、来年度から認定こども園の新制度が動き出すという変革期にあって、保育所は急速に多様化し、その数を増やしている。先人たちの尽力の積み重ねで切り開かれてきた保育所というシステムを、継承し、未来へつないでいく責務を負う私たちが、まず理解する必要があるであろう保育所の原点を知ることができる貴重な一冊だ。
 果たして、現代の私たちが作り、運営している保育所が、先人たちの想いを継承できているのか、自らに問いかけてみたい。

BOOK DATA
日本における保育園の誕生
子どもたちの貧困に挑んだ人びと
【著】宍戸健夫
価格●本体3200円+税
出版●新読書社
ISBN●978-4-7880-1180-9
発行●2014年8月
仕様●21cm×15cm、378頁
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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2014-10-24 19:07 | ●おすすめの本

おすすめの本:『夢の病院をつくろう』

 神戸港にポートアイランドという人工島がある。ここにこのたび完成したのが、チャイルドケモハウスだ。
 「家族の日常をあきらめない」ということを考え続けたと言ったのは、見学させていただいた折にご案内いただいた女性だ。彼女は、下の子を小児がんで失っている。このケモハウスができる前のこと。小児がんの患児と付き添う親は、カーテンで個別に仕切られた大部屋の、わずか2畳のスペースで、半年以上の期間を過ごすという状況だったという。「置き場所のないおもちゃ、生活用品。この狭い空間で、小児がんの子どもたちは半年以上にわたって病とたたかいながら、遊び、学び、そして心身ともに成長していかねばなりません。付き添う親たちに与えられた小さな簡易ベッド。隣と隔てるのはたった一枚の薄いカーテン。熟睡できず疲れた身体で、隣を気遣いながら、わが子を案じ、いたわり、励ます親。親子ともどもあふれ出る感情を押さえ込み、じっと我慢している空間。」だったと記す。そして、家族がバラバラに暮らさざるを得なかったことがとても辛かったと語った。
 俄かには信じがたいが、今でもそのような劣悪な環境下で、入院治療が行われているところが多いという。下の子を亡くした悲しみと、病院で付き添うために子育てができずに「育ててください」と実家に預けた上の子が、母と弟が自分の前から突然いなくなったことを理解できず神経症になってしまうという二重の苦しみを抱えながら、彼女はケモハウスの立ち上げに参加する。
 感染症を防ぐため、外出できない子どもたちのために、「空の見える天窓」を80カ所つけた。水遊びのできる広い「お風呂」も、調理する姿が見える「シースルーキッチン」も作った。もちろん勉強のできる「教室」も作った。つらい時にいつでも泣けるよう「泣き部屋」も作った。そして家族が気兼ねなく過ごせる19室の「ハウス」をつくり、夜、お父さんが遠慮なく仕事から帰ってこられるよう、全ての部屋に「玄関」をつけた。過酷な環境下の闘病生活で「日常をあきらめ」てきた親子だからこそわかる数々の仕掛けが、「家族」という存在に寄り添った優しさの溢れるハウスを作った。病院でもあり、家でもあり、遊び場でもあり、そして19組の同じ苦しみを抱える家族が励ましあえる、ケモハウスという新しい場所が誕生した。
 設計者の手塚氏は、日本はサイレントマジョリティーの国だとし、「新しい建築を世に送り出すと、予想以上の反応が返ってきて、一気に広がることがあります。声を上げないだけで、水面下で問題意識を共有している人は多いはず。」と述べる。とても勇気づけられる言葉だ。
 子の親として、こども建築に関わる者として、ケモハウスから学ぶことはとても多い。このチャイルドケモハウスを、多くの方に知っていただければと思う。ぜひご一読いただきたい。さらに御関心のある方は、下記のホームページものぞいていただきたい。

http://www.kemohouse.jp/

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BOOK DATA
夢の病院をつくろう
【著】NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス
価格●1200円(税別)
出版●ポプラ社
発行●2013年10月
ISBN●978-4-591-13618-8
18.8×12.9cm、158頁
by chibicco-plan | 2014-06-13 18:12 | ●おすすめの本

おすすめの本:『誰がこの子を受けとめるのか』

 先日、こども環境学会のエクスカーションで、東京サレジオ学園を拝見したことから、児童養護施設について知りたいと思い本書を手にした。ご承知の通り、児童福祉施設は「保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを擁護し、あわせて退所した者に対する相談その他自立のための援助を行うこと(※1)」が目的の施設である。最近私は、専門である保育所建築を、違った視点から見てみようと考えていて、少し読書の幅を広げた。そんな中で出会ったのが本書なのであるが、読み進むにつれ、そのような読み方でこの本を読んだことが、全身全霊で養護に取り組むこの「家」の人々に対してあまりにも失礼だったような気がしてきて後悔した。改めて真正面からこの本を再読したいと思っている。しかし、保育所にも当てはめることができるのではないかと思う記述が多くあったので、あえて書きとめることにした。ここに書き記したのは、この本を読んだ感想というよりも、この本によって掘り起こされた私の考えというに近い。

 副題に「光の子どもの家の記録」とある。本書は、著者の菅原哲男氏が1985年に創設した児童養護施設「光の子どもの家」での30年にわたる日々を綴ったものだ。
 「福祉を生業とする者は『他人様の不幸で飯を食わせてもらっている』ということに他ならない。」という言葉で自らを律する氏は、養護施設の営みを「向こう見ずな決意」と呼び、「かけ替えのない親子関係に替わる」という矛盾の中で、「全てにも零にもならなければならない」という、始める前から不可能だと解っている壁と対峙してこられた。
 養護施設は「男がいなくても成り立つが、女が一人も居なくては成り立たない」と氏は言う。それは子どもの養育に対して「母親の役割や影響力は計り知れない」からだ。そして「育児労働を保育所に」まかせることに警鐘を鳴らす。
 養護施設と保育所との決定的な違いは、そこで暮らすこどもが毎日保護者と顔を合わせるかどうかという点だろう。養護施設で暮らす子どもたちは18年間のほとんどを、場合によっては全てを、保護者とは別に暮らす。一方保育所は、当然のことながらそうではない。そうではないが、一日13時間保育が常態化し、朝は目も覚めやらぬ内から服を着せられ、時には食事も摂らずに送り届けられ、夜は、夕食を食べて風呂に入って寝るだけの毎日に、休日保育までついてくる。それは、第一義的責任を有するはずの「保護者のニーズ」なのである。
 仕事でお付き合いさせていただいている、ある保育園の園長は、「親から子育ての権利を奪うたらあかん」と、休日保育の実施を頑なに拒む。平日に長時間保育に預けるのだから、休日はしっかりと親子の時間をとりなさいという趣旨である。ニーズと責任の狭間で揺れている保育所が抱える矛盾が浮かび上がる。
 かく言う私も、娘を保育所に入れながら、他人の子どもが暮らすための保育所を設計するという愚かな父親であり、矛盾の最たる者であるのだが、昨今の未満児保育の拡大や、市場原理の導入など、いくつか疑問を感じる部分がある。 
 菅原氏は、児童養護施設の存在を「必要悪」と言った。保育所も同じように、社会のニーズによる「必要悪」であって、この流れを変えられないとするならば、私たち大人は、自らのための「必要悪」をどのように作っていけばよいのか、真剣に議論する必要があるだろう。今、もの凄い勢いで保育所の量の確保が進んでいるが、保育の質がそれに追従できていないのが明らかだからである。
 「光の子どもの家」は、かつて石井十次(※2)が試みた小舎制を採用している。創設時の定員は30名で、その養護に児童5人に対して保育士1人の責任担当制をもって臨み、2階建ての3軒の「家」の上下階に1つずつ、合計6つの「家族」が作られた。菅原氏は、「子どもを上手に掌握、管理する合理的、効率的な子育ての方向性とは対立する考えで家造りを志向した。」といい、それは「働くには具合の悪い」ことが多く、「一緒に暮らすのでなければかなわないことになっている。」というその建築の考え方は、「家庭で家族とする普通の暮らしを用意する」という住まいづくりそのものであり、「光の子どもの家」が目指そうとしているものに、ぴったりと符号する。そしてその家々で、「セクショナリズム(※3)」に陥らぬよう自らを律しながら、覆いきれない矛盾をそのまま飲み込んで「家族」を形成していくのだ。
 これと比較して保育所はどうだろうか。全国児童養護協議会が平成22年に出している「養育単位の小規模化プロジェクト・提言」によれば、小舎制の普及が進まないと言いながらも、実に20%超える児童養護施設が小舎制を採用しているという。1900年代初頭に石井十次によって実践された小舎制が、現代の児童養護施設に着実に浸透していっているのに対し、保育所は今でもなお、片廊下型大舎制の軛から抜け出せておらず、他の社会福祉施設に比べて遅れをとっていると言わざるを得ない。児童養護施設と保育所が違うのは当然だが、1人の子どもの生活という時間軸の上で考えれば、それが18年という長きに渡るか、一日13時間が6年間断続的に繰り返されるかの違いこそあれ、暮らしの場であるという本質は同じであろう。
 これまで、昭和23年に定められた児童福祉施設最低基準(※4)にもとづいて作られてきた保育所建築は、大部屋に限界まで子どもたちを詰め込んで保育するというものが主流で、食寝分離(※5)はおろか、おまるによる用便と食事が同じ場所で行われることもしばしばである。定員の認可は、大人の数字遊びの様相を呈しており、遊戯室を最低基準面積(※6)に算入するという裏技でもって、弾力化の名のもと、子どもたちをぎゅうぎゅうに詰め込んだ結果、保育室単体でみれば最低基準を割ってしまっている保育所などいくらでもあるのである。数字上は見えてこないだけで、その実態はあまりにも酷い。最低基準面積がなぜ狭いと言われるのかは、平面図上で、布団・食事テーブル・椅子・ロッカー・絵本棚・おもちゃ棚・遊具・保育士机などをならべてみればすぐに解る。建築や保育のプロでなくても、誰にでも一目瞭然なのである。それを知ってか知らぬか、厚生労働省から出ている「保育所保育指針」(※7)には、「保育室は、子どもにとって家庭的な親しみとくつろぎの場」であると高らかに謳い上げる。この隔たりは大きい。足の踏み場もない大部屋のどこが家庭的であり、こどもたち同士の衝突が多発する状況でどのようにくつろげばよいのか。この指針を目指すなら、我々は大きな努力を払わねばならない。その責任は行政にもあり、経営者にもあり、保育者にもあり、保護者にもある。そして設計者のそれもまた大きい。その軛で、もがいている設計者の一人としての私も、それを承知で子を預けている保護者の一人としての私もまた、そうである
 待機児童削減のために、毎年多くの保育所が新たに誕生している。それと時を同じくして、戦後建てられた保育所の多くが耐用期限を迎え、今後建て替えや大規模改修の需要が増えると思われる。翻って言えば、この保育所建設ラッシュは、我々大人がこの軛を脱し、こどもたちへの責任を果たすべく努力できる絶好にして最後のチャンスではないだろうか。この機を逃せば、これまで脈々と続いてきたこの流れは、さらに50年の命を与えられ、急増したその絶対数によって、もはや動かすことはできなくなるであろうことは想像に難くない。
 「哺乳動物が始まって以来2億年」、陸続と営まれ続けてきた子育ては人類の生の本質であり、それに設計という職能をもって寄与できることは大きな喜びである。しかし、設計者だけでそれを実現することは不可能であるし、仮にできたとしても、かつてのオープンスクールがそうであったように、現場の方針と合わずに機能不全に陥る危険を孕むであろう。今やるべきことは、設計者の独善ではなく、保育に関わる全ての大人が足並みを揃え、この課題と向かいあうことだと思うのである。
 菅原氏は言う。不可能や矛盾を前にして、「だから、どうでもいいと言うのではない。だからどうするかという意志的な取り組みが、その絶望的な距離を限りなく短縮していく。」と。

[註]
※1)児童福祉法第41条
※2)石井十次
岡山孤児院の創設者、キリスト者。宮崎県生まれ。岡山医学校に在学中、英国孤児院長の新聞記事に心を動かされ、児童福祉事業に目覚める。1887年には慈善会をつくり3児を引きとった。これが紆余曲折を経て、岡山孤児院に発展する。小舎制と里親制度の導入、収容児の年齢発達区分にしたがった保護教育体制の整備、開墾農場の設立など児童福祉事業として画期的な試みを行った。
※3)セクショナリズム
ひとつの組織の中で、自分の属する部局や党派の立場に固執し、他と協調しない傾向。縄張り意識。セクト主義。
※4)児童福祉施設最低基準
児童福祉法第45条の規定に基づき制定された省令であり、児童福祉施設の設備及び運営に関する最低基準が規定されており、第32条に保育所の設備の基準が定められている。
※5)食寝分離
食事をする空間と就寝に供する空間を分けること。住生活が秩序だって能率よく行われることを目的とする。住生活の最低基本条件の一つ。
※6)最低基準面積
児童福祉施設最低基準第32条に規定される、乳児室・ほふく室・保育室等の一人あたりの最低面積。
※7)保育所保育指針
児童福祉施設最低基準第35条に基づき、保育所保育の理念や保育内容、保育方法などを示し、保育所における保育の向上、充実を図るためのガイドラインとして作成された、厚生労働省告示。

(大塚謙太郎)

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BOOK DATA
誰がこの子を受けとめるのか
【著】菅原哲男
価格●1600円(本体1524円+税)
出版●言叢社
発行●2003年2月
ISBN●4-905913-87-X
18.8×13.0cm、286頁

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2013-06-13 20:38 | ●おすすめの本

おすすめの本:『人生満開』

 私は保育の実務経験がないので、保育論の是非には口をはさまない。しかし、保育所建築として大好きな園舎はいくつかある。
 福岡にある「のぞみ愛児園」の園舎を名作だと思っている。1階の保育室に連続して屋根つきのテラスがあるのだが、子どもたちがいなくても、彼らが遊ぶ光景が手に取るように想像でき、感動的ですらある。
 本書は、その園長豊永せつこ氏によるものである。園舎を見学させていただいたのち、この著書を拝読したのだが、空間に対しても保育に関しても、非常に具体的なお考えを持っておられ、保育というものをハードとソフトの両面から考えておられることがよくわかった。その結果、空間と保育の間の齟齬がない素晴らしい園舎が作り出されている。
 この本は、『子育てに関して、児童福祉に関して「見たまま、聞くまま、ありのまま」の「言いたい放題集」』だという。『一に環境 二に環境』という章があり、『窓をできるだけ多く設け、窓の腰板も低く』、『お部屋感覚のトイレコーナー』、『部屋と部屋をつなぐトンネル』、『子どもたちと保育者どうしが、お互いに「良く見える」』、『子どもの視座に立つ』、『卒園児たちの「ふる里」』、『子どもの手が直接届く場所』など、私たち保育園を設計するものにとっての金言が、溢れんばかりに詰まっている。ここにあるのは単なる理想論ではなく、30年以上をかけて試行錯誤を繰り返し、作りこまれてきた保育空間に裏打ちされた実践の記録なのである。
 私は、園舎の設計というものを、保育士と建築士の共同作業だと考えている。お互いが、忌憚なく意見をぶつけ合って出来上がった園舎ほど、いいものができる。だから、施主様から「こんな保育がしたいんだ」という強い思いをお聞きすることができるととてもうれしい。それを、少しでも多く引き出させていただくことができる建築士が、理想の建築士だろうと思うのだが、私はまだまだ精進が足りていない。
(大塚謙太郎)
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BOOK DATA
人生満開
【著】豊永せつこ
価格●1000円(本体952円+税)
出版●フレーベル館
発行●2002年7月
ISBN●4-577-81159-6
18.7×12.9cm、109頁

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2013-01-05 21:40 | ●おすすめの本

おすすめの本:『死を招いた保育』

 上尾保育所で亡くなった榎本侑人君は当時4歳だった。「本棚の下の戸のついた収納庫」に入り熱中症となったことが原因である。本棚の下に入った理由はわからなかった。『もし自分の子どもだったら』というのは子の親全てが感じることであろう。
 モンスターペアレンツの存在、いじめの問題、児童福祉施設最低基準と現実との乖離、コミュニケーションの問題、保育行政や現場の状況など様々な要因が絡まって、最も守らなければならないはずの命を奪うに至った。保育士の過失のみが原因ではないということに、当事件の根の深さを思わずにはいられない。
 今を遡ること60年以上前の、昭和23年にできた児童福祉施設最低基準については我々設計者でも疑問を感じるのに、保育現場の苦悩はどれほどのものであろう。待機児童数を追いかける前に、保育士が置かれる状況の過酷さを社会はもっと認識すべきだろう。
 筆者は「今の低い基準の中で最も確実な方法を模索して、子どもたちの命を守るのが、保育士の仕事」だと述べているが、室単位の最低基準を割っていても園児を詰め込むという状態の保育所が、公立でも多数存在するのである。最低基準すら数字上のカラクリで誤魔化されてしまうような状況の中で、質の高い保育などできないことは、初めからわかりきっているのである。だから、全ての責任が保育の現場にあるとは、私には到底思えない。これは子ども達に対する大人の責任として、社会全体が真剣に向き合わなければならない重大な問題なのである。
 ルポルタージュとして上尾保育所の事件を淡々と述べるその文章の裏に、子どもたちの置かれる環境を総合的に考え直すべきだという、筆者の強い思いが見える。私も同感である。こどもたちに係わるあらゆる職能が、それぞれの立場で、こども環境を向上させるために努力すべきだろう。私はこどもの建築を設計する建築士という立場で、微力ながら貢献したいと考えている。
(大塚謙太郎)
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BOOK DATA
死を招いた保育
【著】猪熊弘子
価格●1680円(本体1600円+税)
出版●ひとなる書房
発行●2011年8月
ISBN●978-4-89464-168-6
19.5×13.6cm、196頁

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2012-12-25 18:33 | ●おすすめの本

おすすめの本:『私は2歳』

 初版が1961年であるので、私の生まれる前に書かれた本である。ひょっとすると、母も私を育てるにあたり読んだかもしれない。
 2歳児の子育ては一番難しいが、同時に一番可愛らしい時期だとよく言われる。この本は、2歳児「坊や」を主人公にしながら、彼らをとりまく家族や親戚・近隣住民やお友達、そして医師などの人々全体に焦点をあてて、それを子ども本人の視点で描きだし、2歳児の気持ちが手に取るようにわかるという構成をとっており、育児書というより育親書といったほうがよいかもしれない。
 鼻血から脳膜炎まで、小児科医であった筆者が、医師として2歳児やその親とかかわってきた実話をもとに、ユーモアを交えて展開していく。医学の枠を超えて、筆者自身が「子どもの人間形成に(中略)有害であると信じる。」から敢えて書いたという、嫁と姑の不和の問題についても多くのページがさかれる。
 朝日新聞の関西版に連載されたとあって、台詞は大阪弁や京都弁で、特に関西の人には親しみをもって読み進めることができる。挿絵は、いわさきちひろ氏によるものだというのもうれしい。全100編のすべてのページに氏の絵が挿されている。
 私の娘も2歳である。客観的に父親業を省みることができ、改めて2歳児のかわいらしさにふれ、やさしい気持ちになりながら読み進められた。
姉妹篇に『私は赤ちゃん』という本もあるので、あわせてお読みいただきたい。
(大塚謙太郎)
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BOOK DATA
私は2歳
【著】松田道雄
価格●756円(本体720円+税)
出版●岩波書店
発行●1961年3月
ISBN●4-00-412137-X
17.3cm×10.6cm、207頁

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2012-12-15 21:08 | ●おすすめの本

おすすめの本:『発達障害の子どもたち』

 筆者は児童青年期精神医学が専門で、長年にわたり発達障がい児の治療に取り組んできた医師だ。「発達障害の治療に関する誤解と偏見」があまりに多く、「本当に必要なことが伝わっていない」と筆をとったそうである。冷静な目で個別の症例を見つめ、対応方法などを具体的に解説する一方で、教育や保育制度の問題点にも言及し、発達障がいを総合的に俯瞰する。
 「クラスの中でサポートが必要な子どもに受診を進め」ても親が納得してくれなという話は、私もよくお聞きする。保育士だけで全て対応できるものではもちろんないだろうし、医師の診断がなければ保育士の加配が受けられないともきく。そして、何よりもその子のために早い時期に治療を開始する必要がある。 
 本書を読んで、発達障がいの概要をつかむことがことができた。そして、児童デイサービスの普及が必要なこと、そして、児童デイサービスと保育所が連繋できる体制づくりを進める必要があることを、改めて感じた。本書には、私たち設計者にとっても、具体的で有益な情報が多数詰まっており、入門書としてたいへん参考になる一冊である。
(大塚謙太郎)
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BOOK DATA
発達障害の子どもたち
【著】杉山登志郎
価格●756円(本体720円+税)
出版●講談社
発行●2007年12月
ISBN●978-4-06-280040-2
17.3×10.6cm、238頁

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2012-09-19 11:27 | ●おすすめの本

おすすめの本:『スウェーデンのスヌーズレン』

 スヌーズレンというと、耳に馴染みのない言葉かもしれない。「人間のもつすべての基本感覚を刺激し、統合させ、機能させるための環境設定法」と、本書では定義されている。
 一般的な設備としては、明かりをおとした小部屋にウォーターベッドを敷いて、様々な光や音の出る装置を置いたものが多いようだ。私自身、いくつかの児童デイサービスやケアホームで体験させていただいたが、夜の湖面に仰向けに浮かんで、オーロラをぼんやり眺めているような気分で、とてもリラックスできる。
 本書では、知的障がいや、自閉、痴呆など、いくつかの応用例が紹介されているが、私は、児童デイサービスはもちろん、近年、発達障がいを持つこどもたちの受け入れが珍しくなくなってきた保育所でも、有益なものではないかと考えている。
 本書には、スヌーズレンの解説や実例紹介とともに、筆者が一からそれを立ち上げる過程も綴られており、今からスヌーズレンをやってみようという方に、おすすめしたい一冊である。
(大塚謙太郎)
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BOOK DATA
スウェーデンのスヌーズレン
【著】河本佳子
価格●2100円(本体2000円+税)
出版●新評論
発行●2003年5月
ISBN●4-7948-0600-0
19.3×13.5cm、193頁
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by chibicco-plan | 2012-08-18 10:33 | ●おすすめの本

おすすめの本:『赤ちゃんの不思議』

 「赤ちゃん学」という学問がある。
 筆者は東京大学の教授で、その道の第一人者だ。実は、「赤ちゃん」について科学的に未解明な点が多い。私にも経験があるが、娘が赤ちゃんの頃、私があかんべーの要領で舌を出すと、彼女は同じように可愛い舌をぺろっと出したことがある。これは、「新生児模倣」というものだそうで、鏡を見たこともないのに、舌がどこにあるのかを認識しているわけで、考えれば不思議なことである。
 「いないいないばあ」が喜ばれるわけ、テレビ映像と現実との区別、早期教育の是非、心を認識するか、など興味深いテーマを様々な実験を元に解明していく。そして子育てには「赤ちゃんの小さくても強い力を信じ」ることが重要だと説く。
 子育てを、科学のみでとらえることは必ずしも良いわけではないかも知れないが、うつ伏せ寝を止めれば突然死が激減したように、誤った非科学的常識が、時に幼い命を奪うこともある。この本は、多少難解ではあるが、赤ちゃんの持つ様々な能力に出会える、おもしろい一冊である。
(大塚謙太郎)
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BOOK DATA
赤ちゃんの不思議
【著】開一夫
価格●756円(本体720円+税)
出版●岩波書店
発行●2011年5月
ISBN●978-4-00-431311-3
17.3×10.6cm、192頁
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保育園、保育所の設計専門
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by chibicco-plan | 2012-07-30 18:59 | ●おすすめの本

おすすめの本:『虫眼とアニ眼』

 養老孟司と宮崎駿の対談集である。巻頭に『養老さんと話してぼくが思ったこと』と題した宮崎氏の画集がある。保育園やホスピスから、理想のまちづくりまで描くその数々は、建築士の私にとって強烈な刺激である。
 宮崎氏の描く保育園は、床が「三和土」であり、屋上は「はらっぱ」であり、それらが多層に絡み合う土と緑に覆われた立体空間だ。そして宮崎氏は「大人が手と口を出さなければ子供達はすぐ元気になる!!先生たちの考え方が鍵だし、親の考え方を変えるのも大切。その裏づけになる空間が要る」と語る。その「裏づけになる空間」を設計するのが私たちの仕事だ。しかし、「プラスチックをかくす」ことは難しく、「木や土」すらままならない。ましてや「水と火」などなかなか実現できない。
 宮崎氏は「あぶなくしないと子供は育たない」と言い切る。それを提案するには勇気が要るが、それを、建築士としてではなく、こどもたちに対する大人の責任として考え、こどもたちの成長に寄与する園舎を、前向きに提案していくべきだと考えるようになった。
 建築士は、コスト・法令・工期・性能・安全性など様々な要件によって雁字搦めに縛られている。実現させるのは簡単なことではない。しかし、空想の世界で筆を走らせる宮崎氏に羨ましさを感じてはいけないと思う。現実にそれを作ることができるのは、私たち建築士であり、むしろ宮崎氏から羨望のまなざしで見られなくてはいけないはずだからだ。
(大塚謙太郎)

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BOOK DATA
虫眼とアニ眼
【著】養老孟司、宮崎駿
価格●460円(本体438円+税)
出版●新潮社
発行●2008年2月
ISBN●978-4-10-134051-7
15.0×10.8cm、192頁

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2012-07-10 00:06 | ●おすすめの本