私は保育の実務経験がないので、保育論の是非には口をはさまない。しかし、保育所建築として大好きな園舎はいくつかある。
福岡にある「のぞみ愛児園」の園舎を名作だと思っている。1階の保育室に連続して屋根つきのテラスがあるのだが、子どもたちがいなくても、彼らが遊ぶ光景が手に取るように想像でき、感動的ですらある。
本書は、その園長豊永せつこ氏によるものである。園舎を見学させていただいたのち、この著書を拝読したのだが、空間に対しても保育に関しても、非常に具体的なお考えを持っておられ、保育というものをハードとソフトの両面から考えておられることがよくわかった。その結果、空間と保育の間の齟齬がない素晴らしい園舎が作り出されている。
この本は、『子育てに関して、児童福祉に関して「見たまま、聞くまま、ありのまま」の「言いたい放題集」』だという。『一に環境 二に環境』という章があり、『窓をできるだけ多く設け、窓の腰板も低く』、『お部屋感覚のトイレコーナー』、『部屋と部屋をつなぐトンネル』、『子どもたちと保育者どうしが、お互いに「良く見える」』、『子どもの視座に立つ』、『卒園児たちの「ふる里」』、『子どもの手が直接届く場所』など、私たち保育園を設計するものにとっての金言が、溢れんばかりに詰まっている。ここにあるのは単なる理想論ではなく、30年以上をかけて試行錯誤を繰り返し、作りこまれてきた保育空間に裏打ちされた実践の記録なのである。
私は、園舎の設計というものを、保育士と建築士の共同作業だと考えている。お互いが、忌憚なく意見をぶつけ合って出来上がった園舎ほど、いいものができる。だから、施主様から「こんな保育がしたいんだ」という強い思いをお聞きすることができるととてもうれしい。それを、少しでも多く引き出させていただくことができる建築士が、理想の建築士だろうと思うのだが、私はまだまだ精進が足りていない。
(大塚謙太郎)
BOOK DATA
人生満開
【著】豊永せつこ
価格●1000円(本体952円+税)
出版●フレーベル館
発行●2002年7月
ISBN●4-577-81159-6
18.7×12.9cm、109頁
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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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