保育所の木造化が進まない理由
なぜ木造の保育所建築がほとんど存在しないのかということについてふれますと、最大の理由は火災です。児童福祉施設最低基準32条によって、2階建てで2階に保育室を設置する場合は準耐火建築物のイ(以下イ準耐と略す)以上でないと認可されません。従来は耐火建築物しか認められていなかったのですが、2階建ての需要を受けて緩和され、イ準耐でも可能となりました。但し、3階以上は今でも耐火建築物でないと認可されません。待機児童は都市部に集中するわけですから、狭い敷地に高密度で建てなくてはいけない保育所が多くなります。その結果、ほとんどの保育所にイ準耐以上が要求されます。それに適合させようとすると、柱や梁などを石膏ボードなどで覆わなければなりませんから、木は全く見えなくなります。木造を選ばれる建築主は木を見せたいという思いをお持ちの場合が多いと思いますので、それでは、ご満足いただけないでしょう。次の写真は、木造ですが、ボードで柱や梁を覆って、準耐火建築物とした保育室の例です。
イ準耐で木造の軸組を見せる方法として、「もえしろ設計」があります。写真のS保育園は、これを用いて設計しました。(次ページ下)柱や梁等の長期荷重を安全に支持するのに必要な断面に、もえしろ45mmを足して、準耐火性能を付与するという考え方です。例えば独立柱で120角が必要断面だとすると、それにもえしろ45mmを四周に足した210角の柱となりますので、どっしりとした印象の空間になります。長期荷重に対する断面なので、実際にはもっと小さくできる可能性がありますが、一般流通材としては手に入りにくい大きさとなることが多いです。
木材の燃える速度で制御されるもえしろ設計は、木材の品質に制限をかける必要があり、日本農林規格適合の集成材か、同製材で含水率が15%等が条件になってきます。このJASが曲者でして、なかなかJAS材を供給可能な工場がなく、入手が非常に難しいのです。そこに追い打ちをかけるのが工期です。保育所は補助金を得て実施する場合がほとんどで、その多くが単年度事業です。近年改善されてはきましたが、4カ月そこいらの工期で新築園舎を完成させろという、乱暴かつ非常識極まりないスケジュールを行政からごり押しされることはいまだにありますから、材木の手配に手こずると、致命的な工期遅延が発生します。このような大きな材の供給体制を整備することは、保育所建築で木材利用を促進させるにあたっての、必須条件だと思います。消費者と供給者の両方の努力が必要になってきます。
材木の手配に手こずると、致命的な工期遅延が発生します。このような大きな材の供給体制を整備することは、保育所建築で木材利用を促進させるにあたっての、必須条件だと思います。消費者と供給者の両方の努力が必要になってきます。
また木造保育所の場合、平屋であっても床面積が200㎡を超えると準耐火建築物にしない限り、建築基準法で内装制限がかかります。建築基準法は火災を強く意識した法律なので、木造はほかの構造に比べて規制が厳しいのです。これだけを聞くと内装には木が使えないと思ってしまうのですが、逃げ道が用意されています。建設省告示1439号です。厚さ10mm以上の木材を難燃材料(たとえば石膏ボード)の上に貼る、もしくは、1m以内のピッチで間柱や胴縁を壁の内部で火災が伝播しないように配置したうえに10mm以上の板を貼ればよいとなっています。残念ながら、天井は難燃又は準不燃材料以上を要求されますので、普通の木を貼ることはできません。写真のN保育園では、これを使って壁の内装木質化を行いました。
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