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保育園の園舎建築の設計専門家・ちびっこ計画の日々

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13回新建賞2019にて「奨励賞」を受賞しました

新建築家技術者集団主催の、第13回新建賞2019にて、『山がくれた遊具』が「奨励賞」を受賞いたしましたのでご報告いたします。
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 大阪府豊中市の認可保育所「社会福祉法人しらゆり会さくらづか保育園」の3歳以上児棟増築の中で実施した、檜の銘木を使った遊具である。
 増築部は木造二階建てで、増築部の延床面積は346.14㎡、燃えしろ設計を用いたイ準耐火建築物だ。1階に3歳児保育室、2階に4、5歳児保育室を配置し、既存棟との連絡口である1階西側に本遊具を設置した。


既製品と思索

 保育や幼児教育の現場では、遊具もおもちゃも、場合によっては口に入れるものすらも、既製品が使われることが当たり前になりつつある。品質や安全性が向上し、管理する大人が安心して使用できるという点は、非常に重要なことである。そのかわり、それらについてじっくりと考える機会が失われ、思索のない保育が当たり前になっていく。そちらの方は、必ずしも良いこととは言えないだろう。
 一般社団法人日本公園施設業協会が自主規準として定めた「遊具の安全に関する規準」(注1)に従って作られた既成の遊具が保育所では多数派を占めるが、この規準は保護者の監視の下で使うことが前提である。親子が1対1で公園の遊具で遊ぶのとは違い、30対1で保育を行う場合は、一人ですべての遊具にしがみつく子どもたちを監視することはできない。つまり、規準に則った遊具であるというだけでは、安心だと言いきれないのだ。
 それなら、新しく購入する遊具をカタログから選ぶのではなく、素材を前にして試行錯誤を繰り返しながら創るという、選択の余地が残されているのではないか。それなりの時間と手間、「少々の覚悟」がいるが、いざやってみれば思ったほど難しくはない印象である。牛乳パックであらゆるものを製作できるという技術を備えている、保育士という職能を考えると、遊具をつくるということは、案外受け入れられやすいのではないか。無理に設計者が無い知恵を絞り出すのではなく、保育士と建築士が一緒に考えればいいのだ。


山がくれた遊具

 かつては、遊びの代表格のひとつであった木登り。今では、市街地には登るべき木がほとんどない。あるいは、あっても枝を払ってしまうので登れない。一方で、保育所の園庭の木々はひょろひょろで、やはり登るに耐えるものがない。それは残念ながら、木を伐ることは好きだが、緑化条例で縛らねば木を植えることをしない私たち大人の仕業なのだ。木登りは体全体の筋肉を鍛えると同時に、バランス感覚や、危険を察知し最良を選択する力を育む。そして、なによりも楽しい。もちろん生きた木の方が良いのは言うまでもないが、それが叶わないのなら、ホールに一本だけ枝付丸太を建てようという提案をさせていただいたのが、そもそもの始まりだった。
 雪の降り積もる、吉野の銘木店へ園長と出かけたのは、正月を目前にした仕事納めの日だった。おもしろい形状の木々が所狭しと並ぶ迷路のような大倉庫に入るや否や、園長の空想は激しくスパークした。接ぎ木用の枝分かれした大きな檜が1本、空中ブランコ用の曲がり木が1本、枝付皮むき丸太が6本。ホールに1本だけという事前の約束は完全に反古にされている。工期・予算・工法・室面積・安全性などさまざまな心配事がスパークして、顔が引きつっている事務長や現場監督、私ども設計者を尻目に、次々と売約済みの札が貼られていく。おまけで、卵形に削り出した高野槇までついてきた。その心配とは裏腹に、最後はみな笑顔だった。それぞれの立場で、これで遊ぶ子どもたちを想像できたからに違いないし、昔に戻って、木登りをする自分自身を想像したかもしれない。

矛盾に立ち向かえ

 育った山から切り出され、乾かされて、銘木店の手で皮むき丸太として整えられた木々たちは、重量運搬業者によって慎重に現場に運び込まれた。たくさんの枝が突き出した檜材を前に、保育者、施工者、設計者が一堂に会して、すばしっこい子代表と、どんくさい子代表にも参加してもらい、建て位置はどこがよいか、どの枝を残すのか、頭で考え、登り、ぶら下がって体で試し、安全と冒険の狭間で悩み、決めた。目を突かないか、横に渡っていけるか、首吊りにならないか、簡単すぎないか、それは言わばリスクとハザードの仕分け作業だ。なにせ相手は、皮を剥いただけの木なのである。当たり前だが、既製品の遊具と違って均質な部分は皆無である。100点満点はあり得ない。しかし、決して90点が許されるわけではない。避けて通りがちな、その矛盾に満ちた判断こそ、私たち大人が子どもたちのためにせねばならないことの一つであるように思う。その木々を前にして、何時間経っただろう。園長は、少しのあいだ目を閉じたあと、「んー、これでいいです。」と言った。その後、大工によって立ち上げられた木々は、家具職人の手によって危険個所を丁寧に削って仕上げられた。
 批判を承知で言えば、成長につながる小さな怪我を、どのようにさせてあげるのかということを、私たち大人は考える必要があると考えている。それには、背割りに手を突っ込んで削げが刺さるとか、節に触れて擦り傷をつくるとか、自然物の教えとでもいうべき力を持つ、皮むき丸太をはじめとする木材は、最適な材料と言える。


私たち大人の覚悟

 元来、自然物と遊具の境界線はなかったはずだが、いつのころからか、遊具は自然物から独立してしまった。自然物より既製品の方が遊具として優れる部分も多いが、純粋に「おもしろさ」という観点でみると、既製品が優れるとは一概に言えないのではないか。一定の角度で滑り落ちる滑り台より、斜面の段ボールすべりの方がスリルがあるし、等間隔で同じ太さの水平のバーが繰り返すジャングルジムより、木登りの方が変化に富む。遊具は遊ぶためにあるのだから、おもしろさで選ぶのが自然だろう。それ以外のことを優先して遊具が選ばれていると思えば、色とりどりの既製品が異様に映る。
 均質化していく遊具、それとともに単純化されていく遊び。育ちを任せられ、その責任を負わされる現場が、理想と現実の狭間で苦悶しているであろうことは想像に難くない。遊具をカタログから選ばせているのは、実は、保護者をはじめとする園をとりまく社会、つまり大人たちなのではないのかと、私たちは自分自身を疑ってみる必要があろう。
 「少々の覚悟」を現場だけでなく、すべての大人が共有できるなら、子どもたちの生活の場である保育園の環境が、飛躍的に向上するだろう。皮を剥いただけの木々に、鈴なりにしがみつく子どもたちを見ながら、子を持つ一人の大人として、思った。

登り木からみる大事なこと

 少し主題から逸れるが、子どもたちの生活空間を考えるうえで、二点、付け加えたい。
 一点目は、遊びの多重化だ。この「きのぼりほーる」に隣接して、階段下の「えほんのあなぐら」や、地形に起因する段差を利用した「じゃんぷかいだん」、幅500㎜の「こどもかいだん」などを計画した。登り木が目立つので、それがメインだとの印象を与えがちだが、全員が木登り気分であるわけではない。遊びにサブがあるはずはなく、すべてがメインなのだから、複数の居場所を並立させ、子どもたちが自分の意志で居場所を選べるよう心掛けている。本計画でも、絵本を読んだり、ジャンプ遊びをするなど、保育士の目の届く範囲で、複数の遊びが同時進行できるようにした。引渡し後の園長と私の最初の感想は、「えほんのあなぐらを、横に設けてよかった。」という点で一致した。 
 二点目は、近年各地の保育所が抱える音の問題に関してだ。大阪府が発行している、『子ども施設と地域との共生に向けて』(注2)によると、日常的な音に関する苦情の首位は、「園庭での園児の声」となっている。園庭に立派な遊具を設けても、遠慮なく遊びこむということができにくくなっている。遮音壁設置のための補助金が設けられたりしているが、完全に防ぎきれるものでもなく、日照や通風などの二次的な問題も発生する。結局のところ、園と近隣との関係性を時間をかけて少しづつ醸成していくのが解決の近道であろうと思うのだが、その点から考えると、園全体を高い遮音壁で囲んでしまうのは、地域との関係性を築くうえで逆行ではなかろうか。日の光を浴びながら屋外で遊び、ビタミンDの生成を促しつつ体を育てていくということが、子どもたちの成長に不可欠なのだが、このような状況が続くのであれば、室内でも活動的な遊びを展開できるようにする必要があるのかもしれない。この登り木が役立つとなると、少し複雑な心境である。  
 付け加えついでに、内装屋さんの名人芸には感謝申し上げたい。先に登り木を立ててから仕上げをする順序で工事を実施したので、天井の壁紙や、床のビニルシートに対して、登り木が廻縁や巾木なしで貫通する部分の仕上がりは、切った張ったのやっつけ仕事を覚悟していたのだが、後から登り木を立てたのかと見紛うような、実に美しい仕事をしていただいた。新建材には新建材のプロの技があることを改めて感じた。これが大人の本気だと、子どもたちに教えたいところなのだが……、少々説明がむずかしい。


第31回新建全国研究集会での報告以後の展開

 本件を、日本木材青壮年団体連合会主催「第22回木材活用コンクール」に、保育園・工務店・銘木店・弊社の連名で応募したところ、木質開拓賞(日本木材青壮年団体連合会会員賞)に選ばれた。木質開拓賞であるから、木材の新たな利用法を開拓した点を評価されたことになるが、木材業界からの評価ををうれしく思う反面、木登り自体が評価に値するほど、こどもたちの遊びが退化してしまったのかと思えば、少し寂しく感じる。
 竣工1年になるが、事故は一度も無いそうだ。初めは相当心配していたが、今では、やってみればできるものだということが分かった、と仰る。設計者にとって勇気づけられるご感想だし、心配を圧して実行した園長のお考えに、敬意と感謝を申し上げたい。
 丸太の遊具のみにとどまらず、また構造種別に関わらず、こどもの育ちに寄与する材料として、皮剥き丸太をはじめとする木材を使ったこどもたちの生活空間を、これからも積極的に提案していきたいと考えており、現在も木造の園舎を2棟設計中である。もちろん、園庭に植える、生きた木の計画の方も手を抜かずに、というのが大前提だが。

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2019-11-17 10:03 | ●お知らせ
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