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保育園の園舎建築の設計専門家・ちびっこ計画の日々

chibiplan.exblog.jp

建築ジャーナルに掲載されました!

月刊「建築ジャーナル」2023年6月号に、私どもちびっこ計画で設計させていただいた『エンゼルキッズ多田』さま、『ニコニコ桜今津灯保育園分園』さま、『いなみ野母里こども園』さまが、紹介されました。6月1日発売です。

出版社のURLです。
建築ジャーナル (kj-web.or.jp)
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 この国の保育建築を改善する最後にして最大の機会がまもなく終わる。厚生労働省は、2025(令和7)年より、保育所通所児童数が減少に転じると予測しており、待機児童ゼロを達成した自治体では、保育所建設の補助金廃止が始まった。「ポストの数ほど保育所を」の声とともに、1960 年代後半から整備された保育所群は、豊かな建築だとは言い難いかもしれないが、それでも労働者やその子どもたちにとって重要な役割を果たしてきた。
 量的な整備で精一杯だったあの時代から数えて2度目の大量整備の渦中で、これまでの保育建築に足りなかったものを見つけ、これが新しい日本の保育建築だと言えるものを、私たちはつくれただろうか。保育現場のように量的拡充の次は質的整備だという流れは、建ってしまえば変えられない建築には許されるはずもない。まずもこれからもなく、あるのは今だけである。一カ月で基本設計を終わらせろと言われても、落札率が100%を超える実勢価格に補助額が追い付かず何度入札が流れても、5 カ月の工期で年度が明けたのに外構工事が続けられていても、壁紙がまだ貼られていないのに完了検査を受けざるを得なくても、そんなことは子どもたちにとっては単なる大人の事情であって、それらを言い訳にせず、かっこいい大人であれただろうか。
 弾力運用で最低基準を割った保育室にぎゅうぎゅう詰めに押し込まれても、パーソナルディスタンスが確保されずに噛みつかれても、おまるの横に寝かされても、アレルギー除去食が取り違えられても、突然死が頻発しても、混乱と疲弊を極める現場をよそに、入れるだけましと皆が考えたこの時代は、子どもたちにとって生きやすい時代とは言えなかったろう。私たち子育て世代は、この国の保育所やその制度を、子を預けるに足るものなのか、しっかりと見極める余裕などなかったかもしれない。しかしそれもまた、子どもたちにとっては単なる大人の事情である。
 私たち、ちびっこ計画は、2013 年の第一回目の「こども施設特集」から、2020 年の最終回まで、8 回に渡って設計園を掲載いただき、今回、さらに未発表設計園の掲載機会を得た。改めて見返してみると反省ばかりが頭を過る。これからは、大人の事情より、子どもの事情を考えながら設計していきたい。(大塚謙太郎)

『ちいさくつくる』エンゼルキッズ多田
足場がばれた日、通りがかりの子どもに「このおうち2階ないのん?」と尋ねられた。「ちいさく」あること。森友学園が運営する保育園に通底する思想だ。
2階建ての北半を一層とし、切妻屋根を上階から葺き降ろして軒を下げ、全体のボリュームを抑えた。彼の目には平屋建てに映ったらしい。開口部は、垂れ壁をなくして抜けを確保した上で1階天井高を2250mmに、2階天井高は水下を1825mmまで下げて解放感と抱擁感を両立させた。さらに、階段や押し入れの下に畳敷きの「かくれが」を第二の居場所として設けている。燃えしろ設計、保護者にやさしい自動ドア、涼しい電化厨房、パススルーおむつ棚、本物の材料など系列園での建築的工夫を継承し、夜間電力蓄熱式床暖房を加え、やさしいタッチの壁画が彩りを添えた。生活の質の向上を求めて学校法人が考えた保育所である。私たちは「質より量の整備」をそろそろ改めるべきではないか。
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『保育への追従』ニコニコ桜今津灯保育園分園
3歳以上児のみが在籍する分園である。保育室や階段、水回りの仕切りをなくし、喫食把握や見せる調理を意図して調理室と保育室を連続させ、玄関を兼ねる半屋外デッキを広くとって内外の連続性を生む中間領域「あとりえてらす」とするなど、日常に溶け込んだ主体的保育に間取りを追従させた。屋外環境は、系列園出身の造園家、濱田将司氏と保育者の手により、緑のビオトープとして日々進化している。また、住宅地内の保育所として全熱交換器や遮音壁を設置。感染症および近隣への音対策を講じた。
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『大人の居場所もあっていい』いなみ野 母里こども園 増築棟
子ども環境を優先するあまり、大人の環境づくりを後回しにすることが当然だった。でも、「そうじゃなくてもよいのでは」と、私たちはようやく気付き始めた。「おやねのひろば」と名付けた玄関を園の中心に置き、保育者も保護者も近隣住民も、皆が気兼ねなく過ごせる場とした。ガスコンロとオーブンを実装したキッチンを設置。栗丸太の床を、保育者主導の自力建設で、園児の手を借りながら大人たちがつくり上げた。お迎え時には、絵本を読む親子やママ友とのおしゃべりを楽しむ保護者の姿がある。近隣住民が自由に集う毎週の「もりカフェ」では、コーヒーやサンドイッチが提供される。子育て世代と、子育て世代を応援する大人たちのためのサードプレイス。まちの居場所としてのこども園がスタートした。
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保育園、保育所の設計専門
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by chibicco-plan | 2023-06-01 00:00 | ●保育園について執筆・講演
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