『都心に立地する放課後等デイサービスの空間づくりに関する研究-建築士の仕事を通じて-』
大谷由紀子(摂南大学)
1.研究の背景と目的
放課後等デイサービスは(以下、放デイと表記)、2012年創設以来、需要の高まりを受け、事業所数は過去7年で約3倍となり、利用者数は、大阪市では月当たり8,724人(2021)から11,146人(2023)と上昇し、今後も増加が見込まれる(大阪市障がい児童福祉計画より)。放デイは6歳~18歳の障がい児、および、大阪府など自治体によって診断の有無等にかかわらず発達に特徴のある児童を対象とし、日常生活能力向上の訓練・指導を行うと同時に、社会との交流促進、保護者支援、学校でも家でもない第3の場の役割をもつ。しかし、設置基準について国のガイドラインをみると、施設空間に関して「指導訓練室は2.47㎡を目安とする」に留まり、明確な面積要件や相談室・静養室の設置義務はなく、多様なニーズに即した基準がない。近年は児童の事故が多数報告され、職員不足や質的課題も指摘されるが実態は不明である。以上より、本調査では今後も需要が高く、地価や賃料が高い都心部、大阪市内の放デイを対象に、施設計画や環境づくりの現状、工夫や難しさを実事例から把握する。
2.研究方法
研究方法を以下に示す。
対象:大阪市内で運営する放課後等デイサービス事業所3ヶ所
方法:➀施設を設計した建築士3名に方針、工夫、難しさ等を聞き取る②上記2施設を視察、過ごし方など観察、運営者に施設の使い方、開所後の変更点等を聞き取る③行動観察の結果を上記の建築士にフィードバック、計画時との相違点等を聞き取る
3.結果
3-1.施設概要
立地は民家や店舗が密集する生活道路に面し、施設面積は100㎡~150㎡、屋外庭はなく、建物の改修では隣接建物との関係に配慮が必要な敷地である。B、Cの利用者は小学生~高校生、Aは重度障がいから経済的困窮家庭の中高生も利用している。所室は療育空間、相談室、キッチン、事務室、隠れ家の他、可動式家具で小空間やコーナーを設けている。
3-2.建築士の設計方針、工夫と困難、視察の結果
建築士の設計方針は「第2のいえ」「設えは家のように強度は強く」「公園のように自由度が高い」とし、いずれも閉寒感がなく住宅に近い環境を目指している。また、多様な特性をもつ児童の行動が制限されないよう「こどもたちがどの空間を好むのか、予算内でどれが大事かを優先順位をつけて選択」「こども自身が過ごしやすい場所をつくれるようおおらかな空間」と、児童の行動を最優先する一方で、「児童の行動が想定できない施設」であり、ゆえに「建築としてつくり過ぎない」ことが共通方針と読み取れ、事業所Aは土足空間、Bは土間とテラス、Cは畳を設け、自由な利用を期待していた。相談室は保護者が落ち着ける空間が求められ、外部に対しては地域に開くことを大事にしている。安全性や耐久性は、クッション性のある床、吸音性の高い壁・天井材、指詰め防止の扉、清掃しやすいトイレ、破損しても補修しやすい強度の高い下地、強化ガラスなど、児童の特性を考慮した細かな計画がなされ必要事項とされた。予算はいずれの施設も極めて厳しく、感覚統合遊具の導入など事業者の要望への対応、児童とスタッフの創造性を育む環境づくりなど多くの困難があった。運営者の意見は、事業所A、Bともに、モノが散らかると児童が落ち着かないため多くの収納の必要、柔軟な利用が可能なようにカーテンを追加があった。
4.まとめ
都心部の放デイは敷地や設計条件、予算に多くの制約があり、児童の行動が想定ができない困難があるなかで、重大な危険を回避し、児童の創造性や心地よさを優先した環境づくりの工夫が読みとれる。建築士個々のノウハウを共有できる仕組みが望まれ、さらにデータの蓄積が必要である。
※調査にご協力頂いた事業所、建築士の方々に感謝いたします。なお、本研究は摂南大学研究倫理委員会の承認を得て実施しました。
<< 「幼児施設における大人の居場所... | 高校家庭科の準教科書に掲載され... >> |
ファン申請 |
||