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保育園の園舎建築の設計専門家・ちびっこ計画の日々

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カテゴリ:●保育園設計の考え方( 30 )

『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~ 7

空き教室利用の認定こども園が難しい理由

 建築基準法施行令112条に異種用途区画があります。幼稚園の空き教室を利用した認定こども園では、幼稚園部分と保育園部分の間に発生し、体を挟まれればひとたまりもない巨大な鉄扉や重量シャッターを設置しなければならないのですが、調理室や事務室を兼用する場合などはどこで区画をすべきなのか特定することすらできません。

 また、幼稚園の空き教室を保育所に転用すれば、それだけで用途変更確認申請が必要です。これは、保育行政の中で指導が徹底できずに無届の用途変更が多発したため、厚生労働省から用途変更をするように指導せよという通達が出たほどです。用途変更と言えども確認申請ですから、既存建物が緩和規定を除いて合法状態であるのが条件ですが、すんなりといく仕事はほとんどありません。

幼保一元化と言いながら、幼稚園と保育所は、建築基準法上の「類似の用途」にすら認められない異種用途扱いとなることは、認定こども園を普及させる上で検討すべき課題の一つだと思います。ただ、規制の内容はさておき、保育所と幼稚園がまったく違うものだとした建築基準法の考え方は評価するべきだろうと思います。

おわりに

 こうして見て参りますと、いろいろと課題を抱えていて、簡単にいかない部分が多くあることがわかります。やいこしいのでやめとこかという方もいらっしゃることと思います。しかし、道が狭いだけで、閉ざされているわけではないのです。様々な立場で仕事をされている建築技術者の皆さんの少しずつの努力が、この道を拡げます。こどもたちのことも、木や森のことも、我々大人が取り組むべき課題という意味では同じです。親であろうがなかろうが、供給者であろうが消費者であろうが、分け隔てなく取り組む必要がある点でも同じです。そしてこどもが大人なるのに時間がかかるように、木もまた成木となるのに長い時間を要します。どちらも結果が出るのは、はるか未来の話です。はるか未来だからこそ今やらねばならない。私は、このお話の冒頭に「遅きに失した感がある」と申し上げました。これは、社会全体を批判して言ったのと同時に、自戒の念を込めて申し上げたのです。建築技術者の一人一人が取り組まなければ、進展しないことだからです。現在の林業や建築をとりまく状況を見て、過ぎてしまった時間が戻らないという単純な事実を、私たちは痛いほど理解しているはずですから。こどもたちのために、私たち大人が今で木ることを、見過ごさずにやっていきたいですね。




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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2019-06-25 10:00 | ●保育園設計の考え方

『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~ 6

ビルインの認可保育所が難しい理由

ちいさな命をあずかる保育所ですから、児童福祉施設最低基準は建築基準法以上に厳しいものとなっており、その設備の基準が第32条に定められています。

2階以上に保育室を設置すると、無条件で2方向避難を要求されます。また、3階以上に保育室を設置すると内装制限がかかります。建築基準法の内装制限は、腰壁は制限なしですが、児童福祉施設最低基準のそれには腰壁の緩和規定がありません。よって、全ての壁について内装制限がかかると解釈するのが自然なのかもしれませんが、自治体によっては「腰壁は壁ではない」という解釈をする場合もあります。

国は、認可外保育所の認可化を進めようとしているようですが、この現状では簡単ではないでしょう。都市部の保育行政が抱える大きな課題です。園児の安全に直接かかわる規定がこの32条ですが、官民ともに扱いがずさんです。もちろん闇雲に厳格に解釈する必要はないですが、もう少し丁寧に取り扱うべき条文だと思います。

写真のH認定こども園は、鉄骨3階建てで、2・3階に保育室があるため、内装制限がかかり、腰壁は不燃木材を使いました。目が飛び出るような値段ですので、簡単に使える材料ではません。面積規定については、内法でとれという指導が基本です。内法で面積算定すると壁芯に比べて1割前後減りますので、注意が必要です。

多くの待機児童を抱える都市部の行政は、既存のビルの中に保育所を入れ込もうと公募をかけますが、なかなか進展しません。面積的にも設備的にも、これらの条件に見合う物件がきわめて少ないからです。認可外の保育所の多くは貸しビルに入っていることが多いですが、明らかにこの32条を守れていないものが多数あります。

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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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by chibicco-plan | 2019-06-18 10:00 | ●保育園設計の考え方

『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~ 5

保育所の木造化が進まない理由
なぜ木造の保育所建築がほとんど存在しないのかということについてふれますと、最大の理由は火災です。児童福祉施設最低基準32条によって、2階建てで2階に保育室を設置する場合は準耐火建築物のイ(以下イ準耐と略す)以上でないと認可されません。従来は耐火建築物しか認められていなかったのですが、2階建ての需要を受けて緩和され、イ準耐でも可能となりました。但し、3階以上は今でも耐火建築物でないと認可されません。待機児童は都市部に集中するわけですから、狭い敷地に高密度で建てなくてはいけない保育所が多くなります。その結果、ほとんどの保育所にイ準耐以上が要求されます。それに適合させようとすると、柱や梁などを石膏ボードなどで覆わなければなりませんから、木は全く見えなくなります。木造を選ばれる建築主は木を見せたいという思いをお持ちの場合が多いと思いますので、それでは、ご満足いただけないでしょう。次の写真は、木造ですが、ボードで柱や梁を覆って、準耐火建築物とした保育室の例です。


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イ準耐で木造の軸組を見せる方法として、「もえしろ設計」があります。写真のS保育園は、これを用いて設計しました。(次ページ下)柱や梁等の長期荷重を安全に支持するのに必要な断面に、もえしろ45mmを足して、準耐火性能を付与するという考え方です。例えば独立柱で120角が必要断面だとすると、それにもえしろ45mmを四周に足した210角の柱となりますので、どっしりとした印象の空間になります。長期荷重に対する断面なので、実際にはもっと小さくできる可能性がありますが、一般流通材としては手に入りにくい大きさとなることが多いです。

 木材の燃える速度で制御されるもえしろ設計は、木材の品質に制限をかける必要があり、日本農林規格適合の集成材か、同製材で含水率が15%等が条件になってきます。このJASが曲者でして、なかなかJAS材を供給可能な工場がなく、入手が非常に難しいのです。そこに追い打ちをかけるのが工期です。保育所は補助金を得て実施する場合がほとんどで、その多くが単年度事業です。近年改善されてはきましたが、4カ月そこいらの工期で新築園舎を完成させろという、乱暴かつ非常識極まりないスケジュールを行政からごり押しされることはいまだにありますから、材木の手配に手こずると、致命的な工期遅延が発生します。このような大きな材の供給体制を整備することは、保育所建築で木材利用を促進させるにあたっての、必須条件だと思います。消費者と供給者の両方の努力が必要になってきます。

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材木の手配に手こずると、致命的な工期遅延が発生します。このような大きな材の供給体制を整備することは、保育所建築で木材利用を促進させるにあたっての、必須条件だと思います。消費者と供給者の両方の努力が必要になってきます。


 また木造保育所の場合、平屋であっても床面積が200㎡を超えると準耐火建築物にしない限り、建築基準法で内装制限がかかります。建築基準法は火災を強く意識した法律なので、木造はほかの構造に比べて規制が厳しいのです。これだけを聞くと内装には木が使えないと思ってしまうのですが、逃げ道が用意されています。建設省告示1439号です。厚さ10mm以上の木材を難燃材料(たとえば石膏ボード)の上に貼る、もしくは、1m以内のピッチで間柱や胴縁を壁の内部で火災が伝播しないように配置したうえに10mm以上の板を貼ればよいとなっています。残念ながら、天井は難燃又は準不燃材料以上を要求されますので、普通の木を貼ることはできません。写真のN保育園では、これを使って壁の内装木質化を行いました。


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 内装は、塗り替えをはじめとするメンテナンスはそこまで考えなくてもいいので、木の仕上げをどんどん使える最適な場所だといえます。内装については、各種自然系塗料が出回っており、安心して使用できます。選択の基準としては、成分が100%公開されているかどうかというところです。いいものは、生材をなめても害がありません。色にこだわりを持たれる保育園さまは多いので、色合わせでクレームを招かないように、必ず実際に使う材をペンキ屋さんに支給していただいて、実際に施工するのと同じ状況での塗り見本を作成されることをお勧めします。



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by chibicco-plan | 2019-06-11 10:00 | ●保育園設計の考え方

『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~ 3

保育士の労働環境や労働条件というものは、他の福祉の仕事と違わず非常に厳しいものです。

保育士の定数は、0歳なら3人に対し1人、5歳なら30人に対し1人となっています。私などは、わが子1人を育てるのに四苦八苦の毎日です。子どもたち30人を1人で育てるというのは想像もつかない。

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 この状況で、木を敬遠するなと言っても、一筋縄ではいかないのです。しかし、同時に「本物」を排除するということは、こどもたちから成長の機会のいくつかを奪っていることにほかなりません。大人に対しては嘘も方便です。でも、子どもたちに対しては、できるだけ嘘をついてはいけない。「できるだけ」が入りますが、なぜ入るかは後で述べます。だいたい、嘘にまみれた空間で、どうしてこどもたちに嘘はいけないと教えることができますか。こどもたちに対する大人の責任として、やらなければいけない。私の設計ポリシーはそこです。まがい物に走るのは楽です。建築技術者である前に、こどもたちの手本となる大人であることを再認識したいと思うのです。

 しかし、それは簡単なことではありません。十分な打ち合わせを重ねずに、ふんだんに木を使えば、「あいつらは描きっぱなしだ」と設計者は批判を浴びますし、施工者は、クレーム対応に走りまわらなければならないでしょう。そのような状況は、設計する前から簡単に予測がつきます。ですから、木を使う場合は、保育園の先生方との設計打合せで、保育の上でどこまでを許容するのか十分な確認が必要です。潤沢な予算がない場合がほとんどですから、予算配分上の検討も必要です。保育は器だけでは成立しませんし、保育士の先生方だけでも成立しません。ハードとソフトの総合点で、保育の質が決まるのです。だから、木がお好みでない場合や、さまざまな事情で許容が難しい場合は、直ぐに提案を取り下げます。ハードの点数が劣っても、ソフトで盛り返してもらえれば総合点としては、高くなるだろうと考えるからです。ここが前述の「できるだけ」の理由です。だから、一方的に木質化がよい、本物にしなければだめだと考えているわけではありません。保育現場の状況を考えずに、木はいい材料ですとお勧めするのは、設計者のエゴイズムに他ならない。どんなに本物を使おうとも、仕様の押し付けは確実にマイナス側に働きます。保育に対して木の持てる力を存分に発揮させてやるには、使い手の理解が欠かせないのです。保育園の木質化は、園の先生方・保護者・設計者・施工者が手を携えて考えていかなければ、成功しません。



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by chibicco-plan | 2019-05-28 10:10 | ●保育園設計の考え方

『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~ 2

 木は、私自身も大好きな材料の一つなのですが、保育園においては、木は敬遠される材料の代表格です。裸足保育が基本ですから、床に木を使うと足の裏に削げが刺さります。屋外デッキ等で、目地をとれば足の指がはまって爪がはがれます。壁に、羽目板を貼れば、節に手の指を突っ込んで怪我をします。丸太柱を立てれば、背割りに手を突っ込んで抜けなくなります。第一、木はメンテナンスがしにくいのです。掃除も大変です。家具を動かせば木の床は傷だらけになりますし、物を当てれば木の壁はへこみます。しみ込んだ落書きは取れませんし、こぼした味噌汁の染みは幾重にも重なって、ランチルームの床を彩るわけです。最近では、衛生状態に関して多方面から口うるさく言われます。床上にノロウイルスに感染した子供が嘔吐すれば、飛散に気を付けながら清掃して、次亜塩素酸で殺菌するわけですが、杉の無垢板であれば、目地や節に残留物がないかとか、繊維の間にしみ込んでいないかとか、いろいろと気になるわけです。人件費や材料費の急激な高騰で、コスト面も心配です。上げればきりがありませんが、これらが保育園で「木」を使いにくい理由です。

怪我ひとつで子どもは成長しますから、私はやみくもにけがの原因を排除することには賛成しません。むしろ、上手に怪我をさせてやりたいと考えています。それには、木が最適なのです。大けがをすることなく小さな怪我をさせてやれる、育ちの材料と言えます。

 使いやすくメンテナンス性の良いまがい物が評価され、木をはじめとする「本物」は、保育の現場ではあまり良い評価は得られません。

床材のためにけがをするこどもは、あらかじめ予測ができることもわかってきました。節や削げが悪いというよりは歩き方の問題なのです。歩き始めのこどもたちは、爪先立ちで歩いたり、すり足で歩いたり、ユニークな癖を持っているこどもたちがいます。

 そしてもうひとつ、「本物」につきまとうリスクの裏には、必ずこどもたちの成長の機会が隠れているからです。例えば、障子を使わせていただいたS保育園の先生におたずねすると、「障子紙は案外破りません。こどもたちは、たとえそれが1歳児であっても、硬いものと柔らかいものとでは触れ方が違います。初めは破れないか心配でしたが、今では障子紙を使ってよかったと思っています。」とこうおっしゃいます。こどもたちは自分の体に触れた感触で物を理解していくということがよくわかります。壁や天井の板張りにある節が、お化けの目に見えてきて怖くてお昼寝ができないというこどももいました。素晴らしい想像力です。



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by chibicco-plan | 2019-05-21 10:00 | ●保育園設計の考え方

『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~

日々の業務の中で思うこと

 正直に言いますと、いま木材利用を声高に言っても、遅きに失した感があります。しかし、どうでもいいと思っているわけでなく、やらなければいけないと思っているのですが、さらに包み隠さず申しますと、私は林業を振興しようとか、山を再生しようとか、そういうことに直接興味があるわけではありません。「木」を使うことは手段であり、目的ではないからです。 それは、設計者として問題のある発言かもしれませんが、設計というものを、こどもたちが生活し、そして育っていくための場を作る手段の一つにすぎないものだと私は考えていて、建物とはその道具であり、木はその道具を作るための材料の一つと考えています。この際、洗いざらい申し上げますと、私は設計の中で積極的に「木」を使おうとは一切考えていません。ただ、できるだけ「本物」を使おうと考えているだけなのです。

 「本物」と言えばいろいろとあります。石もそうですし、漆喰もそうですし、煉瓦も、コルクも、瓦も竹も、そして木も「本物」です。私が、ここで「本物」でないと考えているのは、例えば、石積調吹き付けとか、打ちっぱなし調ビニルクロスとか、木目調ポリ合板とか、籐柄の長尺シートとか、そういう類のものです。はっきり言って嫌いです。これを使うときは、心引き裂かれる思いで仕上表を書くのです。残念なことは、「本物」の材料の物性は、ほとんど全てにおいて人工材料に劣るという事実です。

 木質化された空間が、あたたかみがあってよいといいますが、それがもし、木目柄の長尺シートの床と、木目柄のオレフィンシートの建具と、木目柄のビニルクロスの壁と、木目柄のメラミン合板の家具で構成されていたとしても、保育士の先生方は、たぶん同じことをおっしゃいます。その「あたたかみ」なるものが、「本物」でなくても成立しているとすれば、大切なことは表面の見えがかりではないのです。


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by chibicco-plan | 2019-05-14 10:00 | ●保育園設計の考え方

「めぐみ幼稚園」様について NO.7

時流に流されない
外へ目を向ければ、待機児童数を減らすという大人の正義が振りかざされ、認定こども園や保育所が濫造されている。定員弾力化の名のもとに、園児の詰め込みが公然と行われ、突然死や虐待が後を絶たない。そのような過酷な状況であっても、生まれたこどもは預けるものという考え方が肯定されるこの時代は、こどもたちにとって生きやすい世の中とはいえないであろう。そのような流れに迎合せず、幼稚園のままこどもたちを見つめ続けていらっしゃる、変わることのないめぐみの保育が、この新しい舞台で末永く続いていくことを期待している。


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by chibicco-plan | 2019-04-23 10:00 | ●保育園設計の考え方

「めぐみ幼稚園」様について NO.6

ちいさなきもちを受けとめる
「ひろびろデッキ」は、保育室と同じく、地面から床を50cm高く設定しており、運動場とは3段の踏み段でつながっている。正面の外観からは、軒の低さを感じさせないが、ひとたび屋根下に入れば、茅葺民家の軒下を思わせる囲まれた感じのする空間で、最も低いところで床面高さから190cm弱に設定されている。旧園舎の間取りに対し、南側に廊下を配置しなおすことで生まれた「ひろびろデッキ」だが、これによって旧園舎に見られた保育室への豊かな彩光が難しくなるため、その直上に天窓と高窓を配置し、複数の経路で保育室に光を導いた。そのため、保育室が平均天井高の比較的高い勾配天井となり、開放的な場所となったので、「ひろびろデッキ」には、その逆の性格を持たせるため、天井をできうる限り低くし、内外をつなぐ連続性を保ちつつも、落ち着いたスペースとなるよう意図した。旧園舎前で行われていた様々なことが、天候などに左右されることなく、ゆったりと行えるようになったほか、今まで保育室の中だけに留められていた遊びも、季節の風を感じながら、ここで展開することができるようになった。
 いのりのおへやに作られた「えほんのあなぐら」は、天井高さが120cmで、床を15cm掘り下げた、およそ3畳ほどのコーナーだ。床にコルクタイルを敷き詰めた、こどもサイズのスモールスペースである。三方の壁すべてを作り付けの本棚とし、およそ1400冊のえほんがならぶ。旧園舎では、たくさんの蔵書を持ちながら、こどもたちの身近に置くことができなかったが、ここにくれば、いつでも、どんなときでも、えほんの世界に飛び込むことができる。きっと、記憶の中で生き続ける、思い出の一冊に出会えるだろう。
 それから、生活調査時に、保育室内でのお遊戯の輪に入らない園児が数名いるのが気になっていたので、押入れ下におよそ1畳分のスペースとして「かくれがこーなー」や、「おきがえこーなー」を地窓とセットで設け、複数人での遊びが発生しにくい小面積にすることによって、集団と適度な距離感を保ちながらも、ひとりでいたいときの居場所を保障しようと考えた。
 このように、いくつかの違った性格の空間を想定し、こどもたちが自分の気持ちにあった居場所を、自分の意思で選択できるようにした園舎は、プラン的には単純な片廊下型でありながら、断面計画を中心にしたいくつかの調整、廊下幅を広く取って用途性を持たせた上で、間口いっぱいに開放できる木製建具で保育室との連続性を確保したことによって、保育と園児の行動の幅が広がり、画一的でない生活を導き出した。
 そのほか、細部計画においては、扉の指詰め防止処理、出隅の丸面取りなどをはじめとする怪我の防止対策や、網戸の破れ対策など教諭の手間を軽減する対策をしっかりととった。過剰なのではないかと考える向きもあるが、こどもの行動に対して禁止や抑制を与えすぎて、保育が後ろ向きで窮屈なものになる事のほうが、こどもにとっての不利益になるだろうと考えた。


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by chibicco-plan | 2019-04-16 10:00 | ●保育園設計の考え方

「めぐみ幼稚園」様について NO.5

保育の外縁を支える
旧園舎の設計は、ヴォーリズ事務所の手によるもので、北側にロッカーが並ぶ廊下を設け、南側に大きな掃き出し窓のある明るい保育室を配置する明快なプランで、地窓を設けてこどもの生活領域に風を導く工夫も施され、こどもたちの良質な生活空間を確保しようとする意図にあふれる設計であった。しかしながら、私たちが生活調査を行う中で、室配置と生活動線がうまく整合していないことに気が付いた。
 下の3枚の写真は、建て替え前の旧園舎を視察させていただいた時のものだ。
タオル掛けにタオルを掛ける等の朝の生活準備、手足を洗う、段に腰かけて靴を履く、段に集まって先生のお話を聞く、送迎の保護者が集まるなど、保育の外縁を構成する様々な行為が、園舎前のスペースで行われていた。残念なことに、使用頻度が高く、生活の交差点ともいえるその重要な場所には、屋根がなく、短い軒にコンクリートの土間があるだけという状況だった。私が「雨の日のお迎えはどないしてはりますか。」と問うと、「保護者さんは傘を差して待ってはります。」と至極単純な会話になってしまった。長い時の中で、それは不都合なことではなく、当たり前のことになっていた様子である。
生活調査の結果、園児が保育室間を自由に行き来することが多い保育スタイルであること、玄関があるにはあるのだが、手狭なために、登園動線を運動場のある南側からのリビングアクセスとしていて、北側廊下に設置されているロッカーに至るためには保育室を縦断する必要があること、本来廊下で行う事を想定していたであろう、タオル掛けやコート掛けなどの生活準備が、南側の屋根なし土間で行われていたことなどがわかった。
 私たちは、建物の間取りを、本来の生活の動きに従わせるため、南側に深い軒の出とともに、「ひろびろデッキ」として多用途に使える幅広の解放廊下を設けて保育室を北側に配置する計画とし、保育の外縁をサポートできる園舎を目指そうと考えた。


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by chibicco-plan | 2019-04-09 10:00 | ●保育園設計の考え方

「めぐみ幼稚園」様について NO.4

「本物」を使う
 私たちの設計スタイルは、園の一日の生活の様子を拝見する生活調査と、先生方からお聞きするご要望、そして教諭や保育士の皆さまとのワークショップの成果などを材料にして、正解へとにじり寄っていくというものなので、あまり冒険的な設計にはならない。私たちは、保育の質というものは、ソフトとハードの総合点で決まるものだと考えている。ソフトである保育のやり方に、ハードとしての建築が寄り添っていなければ、質の高い保育にはならないのは当然のことで、それはそのままこどもたちの不利益に直結する。そんな中、少し頑固に提案させていただくことがひとつだけある。こどもたちのために、「本物」の材料を使おうということだ。
 私たちが、「本物」ではないと考えるのは、木目調ポリ合板とか、フローリング調ビニルシート等の、いわゆる「似せもの」のことだ。残念なことは、「本物」の材料の物性が、ほとんどそれに劣る上、価格も高いという点である。
 こどもの建築では、木は本物の代表格でもあると同時に敬遠される材料の代表格でもある。裸足保育をする園では、床に木を使うと足の裏に削げが刺さる。板張の節で怪我をする。丸太の背割りに手を突っ込んで抜けなくなる。木はメンテナンスが必要だし、掃除も大変だ。家具を引き摺れば木の床は傷だらけになるし、物を当てれば木の壁はへこむ。敬遠される理由を挙げれば限がない。「本物」には、必ずリスクが付きまとう。なぜ、それでも「本物」にこだわるかというと、大人として、そして子の親として、こどもたちが「本物」を知る前に、似せものを見せたくないと考えるからだ。そしてもうひとつ、「本物」につきまとうリスクの裏には、子どもたちの成長の機会が隠れているからだ。めぐみ幼稚園では、丸太の背割りでの怪我や、板張りを汚したり痛めるなどの失敗を、こどもたちの成長に資する自然物の教えとして、積極的に捉えていくことが確認された。
その一方で、保育室はよごしてなんぼという側面もある。床や壁に木材を多用すると、誰しもお部屋を美しく保ちたいという気持ちがあるから、せっかくきれいにできあがったお部屋を汚してはいけないと、自然に子どもたちの行動を制約するような保育になり、子どもたちが窮屈な生活を強いられるケースも多く、それでは本末転倒である。水は絵の具などを多用する製作遊びを、汚れを気にせず、思う存分楽しむことができるよう、保育室の床はビニルシート、壁はビニルクロスで仕上げ、清掃を容易に行えるようにした。材料ひとつで保育が変わってしまうのである。保育の考え方に応じた適切な材料選定は、とても重要だ。


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by chibicco-plan | 2019-04-02 10:00 | ●保育園設計の考え方