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保育園の園舎建築の設計専門家・ちびっこ計画の日々

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『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~ 3

保育士の労働環境や労働条件というものは、他の福祉の仕事と違わず非常に厳しいものです。

保育士の定数は、0歳なら3人に対し1人、5歳なら30人に対し1人となっています。私などは、わが子1人を育てるのに四苦八苦の毎日です。子どもたち30人を1人で育てるというのは想像もつかない。

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 この状況で、木を敬遠するなと言っても、一筋縄ではいかないのです。しかし、同時に「本物」を排除するということは、こどもたちから成長の機会のいくつかを奪っていることにほかなりません。大人に対しては嘘も方便です。でも、子どもたちに対しては、できるだけ嘘をついてはいけない。「できるだけ」が入りますが、なぜ入るかは後で述べます。だいたい、嘘にまみれた空間で、どうしてこどもたちに嘘はいけないと教えることができますか。こどもたちに対する大人の責任として、やらなければいけない。私の設計ポリシーはそこです。まがい物に走るのは楽です。建築技術者である前に、こどもたちの手本となる大人であることを再認識したいと思うのです。

 しかし、それは簡単なことではありません。十分な打ち合わせを重ねずに、ふんだんに木を使えば、「あいつらは描きっぱなしだ」と設計者は批判を浴びますし、施工者は、クレーム対応に走りまわらなければならないでしょう。そのような状況は、設計する前から簡単に予測がつきます。ですから、木を使う場合は、保育園の先生方との設計打合せで、保育の上でどこまでを許容するのか十分な確認が必要です。潤沢な予算がない場合がほとんどですから、予算配分上の検討も必要です。保育は器だけでは成立しませんし、保育士の先生方だけでも成立しません。ハードとソフトの総合点で、保育の質が決まるのです。だから、木がお好みでない場合や、さまざまな事情で許容が難しい場合は、直ぐに提案を取り下げます。ハードの点数が劣っても、ソフトで盛り返してもらえれば総合点としては、高くなるだろうと考えるからです。ここが前述の「できるだけ」の理由です。だから、一方的に木質化がよい、本物にしなければだめだと考えているわけではありません。保育現場の状況を考えずに、木はいい材料ですとお勧めするのは、設計者のエゴイズムに他ならない。どんなに本物を使おうとも、仕様の押し付けは確実にマイナス側に働きます。保育に対して木の持てる力を存分に発揮させてやるには、使い手の理解が欠かせないのです。保育園の木質化は、園の先生方・保護者・設計者・施工者が手を携えて考えていかなければ、成功しません。



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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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# by chibicco-plan | 2019-05-28 10:10 | ●保育園設計の考え方

『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~ 2

 木は、私自身も大好きな材料の一つなのですが、保育園においては、木は敬遠される材料の代表格です。裸足保育が基本ですから、床に木を使うと足の裏に削げが刺さります。屋外デッキ等で、目地をとれば足の指がはまって爪がはがれます。壁に、羽目板を貼れば、節に手の指を突っ込んで怪我をします。丸太柱を立てれば、背割りに手を突っ込んで抜けなくなります。第一、木はメンテナンスがしにくいのです。掃除も大変です。家具を動かせば木の床は傷だらけになりますし、物を当てれば木の壁はへこみます。しみ込んだ落書きは取れませんし、こぼした味噌汁の染みは幾重にも重なって、ランチルームの床を彩るわけです。最近では、衛生状態に関して多方面から口うるさく言われます。床上にノロウイルスに感染した子供が嘔吐すれば、飛散に気を付けながら清掃して、次亜塩素酸で殺菌するわけですが、杉の無垢板であれば、目地や節に残留物がないかとか、繊維の間にしみ込んでいないかとか、いろいろと気になるわけです。人件費や材料費の急激な高騰で、コスト面も心配です。上げればきりがありませんが、これらが保育園で「木」を使いにくい理由です。

怪我ひとつで子どもは成長しますから、私はやみくもにけがの原因を排除することには賛成しません。むしろ、上手に怪我をさせてやりたいと考えています。それには、木が最適なのです。大けがをすることなく小さな怪我をさせてやれる、育ちの材料と言えます。

 使いやすくメンテナンス性の良いまがい物が評価され、木をはじめとする「本物」は、保育の現場ではあまり良い評価は得られません。

床材のためにけがをするこどもは、あらかじめ予測ができることもわかってきました。節や削げが悪いというよりは歩き方の問題なのです。歩き始めのこどもたちは、爪先立ちで歩いたり、すり足で歩いたり、ユニークな癖を持っているこどもたちがいます。

 そしてもうひとつ、「本物」につきまとうリスクの裏には、必ずこどもたちの成長の機会が隠れているからです。例えば、障子を使わせていただいたS保育園の先生におたずねすると、「障子紙は案外破りません。こどもたちは、たとえそれが1歳児であっても、硬いものと柔らかいものとでは触れ方が違います。初めは破れないか心配でしたが、今では障子紙を使ってよかったと思っています。」とこうおっしゃいます。こどもたちは自分の体に触れた感触で物を理解していくということがよくわかります。壁や天井の板張りにある節が、お化けの目に見えてきて怖くてお昼寝ができないというこどももいました。素晴らしい想像力です。



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保育園、保育所の設計専門
ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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# by chibicco-plan | 2019-05-21 10:00 | ●保育園設計の考え方

「ワールドインテリアウィーク2019」セミナー&トークセッションで講演します

「ワールドインテリアウィーク2019」で行われる セミナー&トークセッション『時代が求めるデザイン』において、私ども ちびっこ計画代表の大塚謙太郎が講演いたします。

セミナー&トークセッション
  • 日時:2019年5月27日(月16:00 -18:10 )
  • 会場:DESIGN HUB内 インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター
    (東京都港区赤坂9-7-1 東京ミッドタウンタワー5階)

    詳細はこちらをご覧ください。

    先日受賞しました「平成30年度キッチン空間アイデアコンテスト協会会長賞」の詳細に関しましては、こちらをご覧ください。



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  • # by chibicco-plan | 2019-05-16 10:22 | ●お知らせ

    『こどものためにで木ること』~内装に係る法規制を考える~

    日々の業務の中で思うこと

     正直に言いますと、いま木材利用を声高に言っても、遅きに失した感があります。しかし、どうでもいいと思っているわけでなく、やらなければいけないと思っているのですが、さらに包み隠さず申しますと、私は林業を振興しようとか、山を再生しようとか、そういうことに直接興味があるわけではありません。「木」を使うことは手段であり、目的ではないからです。 それは、設計者として問題のある発言かもしれませんが、設計というものを、こどもたちが生活し、そして育っていくための場を作る手段の一つにすぎないものだと私は考えていて、建物とはその道具であり、木はその道具を作るための材料の一つと考えています。この際、洗いざらい申し上げますと、私は設計の中で積極的に「木」を使おうとは一切考えていません。ただ、できるだけ「本物」を使おうと考えているだけなのです。

     「本物」と言えばいろいろとあります。石もそうですし、漆喰もそうですし、煉瓦も、コルクも、瓦も竹も、そして木も「本物」です。私が、ここで「本物」でないと考えているのは、例えば、石積調吹き付けとか、打ちっぱなし調ビニルクロスとか、木目調ポリ合板とか、籐柄の長尺シートとか、そういう類のものです。はっきり言って嫌いです。これを使うときは、心引き裂かれる思いで仕上表を書くのです。残念なことは、「本物」の材料の物性は、ほとんど全てにおいて人工材料に劣るという事実です。

     木質化された空間が、あたたかみがあってよいといいますが、それがもし、木目柄の長尺シートの床と、木目柄のオレフィンシートの建具と、木目柄のビニルクロスの壁と、木目柄のメラミン合板の家具で構成されていたとしても、保育士の先生方は、たぶん同じことをおっしゃいます。その「あたたかみ」なるものが、「本物」でなくても成立しているとすれば、大切なことは表面の見えがかりではないのです。


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    # by chibicco-plan | 2019-05-14 10:00 | ●保育園設計の考え方

    日本における保育園の誕生


     明治期の民間保育所の立ち上げから、大正期の公立保育所の設立まで、我が国における保育所の黎明期を詳細に追う。東京女子師範付属幼稚園や二葉保育園から、岡弘毅の保育一元化論、石井十次らの児童保護事業なども射程に収め、先人たちが子どもたちの貧困に対し如何に尽力してきたのか、定員・保育士数・保育料・日課・法令・貧困の実情など、あらゆる視点から当時の状況を考察し、園舎の平面図や当時の写真など豊富な資料とともに詳らかにする。

    小規模保育所の公募が始まり、株式会社に門戸を開く動きが加速し、来年度から認定こども園の新制度が動き出すという変革期にあって、保育所は急速に多様化し、その数を増やしている。先人たちの尽力の積み重ねで切り開かれてきた保育所というシステムを、継承し、未来へつないでいく責務を負う私たちが、まず理解する必要があるであろう保育所の原点を知ることができる貴重な一冊だ。

    果たして、現代の私たちが作り、運営している保育所が、先人たちの想いを継承できているのか、自らに問いかけてみたい。

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    BOOKDATA

    日本における保育園の誕生

    子どもたちの貧困に挑んだ人びと

    【著】宍戸健夫

    価格●本体3200+

    出版●新読書社

    ISBN978-4-7880-1180-9

    発行●20148

    仕様●21cm×15cm378




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    ちびっこ計画 / 大塚謙太郎一級建築士事務所
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    # by chibicco-plan | 2019-05-07 10:00 | ●おすすめの本